が、わたしはすでに気づいている。両親も仲間も愛おしい人ですら現実のものではない。この地方はわたしの郷里ではあり得ない。それどころか、実際には、一度だって訪れたことさえない、はずだ。
 これは、現実には存在することのない、想像上の町なのだ。今、目の前に広がる町並、山々、あの海も、そのすべては、長年にわたって夢の中でわたしが描き、創りあげてきた、架空の町だ。
 それは、始めから一つの出来上がった町だったのではない。今になって思うと、それは長い時間をかけて組み上げてきた、巨大なジグソーパズルのようなものかもしれない。

 つまり、こんな具合だった。
 ある夢の中でのわたしは、海辺に立っていたり、小高い丘の上に広がる林の中にいて、その場所に広がる光景を目にするだけだった。
 別の夢では、自分の車を運転していたりすることがあれば、バスに乗っていることもあった。
 また、あるときは、わたしの職場である中学校の職員室で執務していたり、仲間や家族と一緒だったり、あるいは、こんなふうにひとり、ただ町の中を歩きながら結局自分の存在を意識したりしていた。

 そして、大切な女性と語らいの時間を過ごすこともあった。
 最初、それぞれは、相互に何の関係もない、雑多な夢の断片でしかなかった。
 ところが、ある日、わたしは、林の間から見える、沖に浮かぶ小島が別の夢に出てくる砂浜の沖にある島と同じ形をしていることに気づいた。はっとして振り仰いだ稜線は、やはり職場の窓から見えるそれと同じ形をしていた。
 それをきっかけにして、夢の断片は次々と繋がり出し、ジグソーパズルのように組み合わさり、一枚の絵をつくり上げていった。
 いつしか散歩道は車で通う道路と繋がり、各所から見える海は沖の小島を基点にして一つの海となった。繋がった道路が学校や各種の公共施設、商店など、いくつものスポットを次々と結んでいった。
 こうして遠景と近景とが重なり合うようにして、いつしか一つの町が夢の中に出来上がっていった。
 振り返ってみると、わたしが幼い頃から様々に見てきた夢の多くは、この一つの町のどこかで繰り広げられてきたものだったのだ。
 いまや現実と瞼一枚を隔てるだけに浅くなった夢の中でぐるりと躰を一回転させ、町をゆっくりと眺め回してから、もう一度潮の香りで肺を満たす。