剛は、自信家というのではないが自分の考えというものをいつも明確に示しながら人の先頭に立つ父と自分とでは全然タイプが違うと感じている。
 ただ、誠一はそう思っていないらしく、何度か『剛の性格は父さん似だ』と言うのを聞いたことがある。本当にそう思っているのか、ただそう思いたいだけなのかは、実のところ、よく分からない。剛は、その言葉を耳にするたびに内心で首を傾げてはいた。
「まあ、それが続けられるなら理想なんだが、父さんの会社ではなかなかそうもいかなくてな。このところは新卒の採用はひところの五割がやっとという感じだな」
 ここ数年、注文住宅は振るわないようだが、建売住宅のほうはコストを抑えた低価格住宅が底堅い売れ行きを維持しているようで、週末になると父の会社の折込広告を目にすることが多かった。
 数年前から健康診断結果が出るたびに体重や血糖値を気にする素振りを見せはするものの、生活習慣を変えるまでの考えはないらしく、体重は今も増え続けているようだ。このところ、白髪が随分と目立つようになった。これが父だ、と当り前のことを今更ながらに思う。夢のせいに違いない。
 現在の住まいは、十二年前、父の会社で注文住宅を建てて移り住んだものだ。この家に入居するまでは同じ我孫子市内の団地の2DKに住んでいた。
 毎朝繰り返される取り留めのない会話だ。この春、剛より三つ歳下の妹が京都の大学に進学して自宅を離れてからの三人だけの会話がまだ少し窮屈に感じることがある。
 妹の綾がいたときは、何かと話題を振りまきながら、朝の時間に活気を与えてくれたものだった。

 TV画面の時刻が七時四十五分になったのを見て、まだやや熱いコーヒーの残りを喉に流し込む。天気予報の晴れマークを横目にネクタイを結びながら腰を上げる。
「あら、コーヒーくらいゆっくり飲めばいいのに」
 何ということもない言葉も楽しげな表情で言う母を見ていて、剛は、自分の親でありながら、この人はきっと幸せな人生を歩んできた人なんだろうと感じることがある。前世の行いがさぞかしよかったのだろうと思わせるような明るい表情だ。
「電車の時間があるからさ。行ってきます」
「行ってらっしゃい。車に気をつけるのよ」 

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

次号予告

この世にもう一人、同じ町の夢を見る女性がいた。二人に接点はなかった。彼女は、町を舞台にエスカレートする悪夢に悩まされていた……