視線を周囲に振る。何か具体的な計画があったわけではないのだ。ただ、この町に向かわなければという気持ちだけがはやり、それに追い立てられるようにしてここまで来てしまったというのが正直なところだった。
 あの人もここを訪れるだろうか。コメントには『早速訪れてみます』と書いていたから、今日にも来ている可能性があった。
 美貴は、いっそあの人に正直に自分のことを打ち明けて、二人でこの町へ来ることを相談してみようかと迷ったりもしたのだった。
 しかし、よくよく考えてみると、そんなことができるはずがなかった。そんな話をまともに受け止めてくれる人間などいようはずがない。下手をすれば、変人扱いされるだけだろう。
 しかも、相手にはまだ会ったことすらないのだ。互いの事情がわからず、どんな素性の人間なのかも分からない状況では無謀な話だった。

山の様子と曇り空

 結局、こうして一人で、具体的な考えもないままに、ここまで来てしまったのだ。美貴は、とりあえず、駅のすぐ北側にある踏み切りを渡り、海のほうへと向かった。
 気温は横浜や東京ほど高くなかったが、それでも陽射しは強かった。鞄から取り出した日傘を差しながら砂浜へとスニーカーを踏み入れる。足元からの照り返しが強烈だった。
 波打ち際で立ち止まって沖のほうを眺める。悲しくなるほど広大な海原が水平線の向こうへと続いている。
 自分がこれからしようとしていることは、この気が遠くなるほど広大な海の底に沈められた小さな鍵を探し出すようなものではないだろうか。ふとそんな思いにとらわれた。弱気になっているせいだろうか。いや、そうではない。実際には、それ以上に困難を伴うものかもしれないのだ。

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町の中で……