古い建物

 剛は、やっとこの町とめぐり合うことができたという感慨にまだ浸っていた。行く先々で、懐かしい光景に出会った。正確には、記憶どおりのまま残っているものもあれば、失われたものも少なからずあった。
 I町役場のHPには、当時の地震の揺れそのものによる被害は全体に小さく、また、津波による浸水も沿岸部の限られた地域に留まり町中まで達しなかったことから、建物や構築物の損壊はさほど深刻なものではなかった、ということが記されていた。
 しかし、町の様子が一変するほどの被害を受けていたらどうだったろうか。それでも、この町を見つけることができただろうか。その可能性が失われていたかもしれず、こうしてこの町にめぐり合うことができたことは幸運と言うべきだろう。
 今日一日、町の様子を確かめることができたことにはそれなりに大きな意味があった。そして、今は、夢の中の町が現実に存在するI町そのものであることを確固とした事実として受け止めていた。
 一応の成果とは言えたが、目的はそこに留まるものではない。謎を解くことが究極の目的だ。 
 今回の旅は週末を利用した一泊だけのもので、明日には我孫子に帰らなければならない。それでも、こうして来たからには、小さなものにしろ何にしろ、謎に近づくための取っ掛かりの一つでも見つけたいという思いが強くあった。
 明日は、夢の中に繰り返し出てくる場所をできるかぎり多く訪ねてみようと考えていた。何かを見つけられるかもしれない。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

次号予告

剛の夢の中に初めて海辺の岩場が現れる。翌朝、剛は岩場へと向かう。そして、そこに立つ女性の後ろ姿を目にする……

[執筆:木村ガーフィールド
[最終更新日:2019年11月6日]