(前号までのあらすじ)
我孫子市に住む、千葉フロンティア銀行の2年目行員である剛は、幼い頃から長い時間をかけて一つの町を築き上げてきた。その町は海辺にあり、奇妙なことに、夢とは思われないほどの現実感を伴っていた。剛は、両親に連れられて行ったことがある町の記憶が残っているのではないかと考え、母に尋ねるが、話の中にその町は出てこなかった。
一方、横浜に住むOL美貴は、繰り返し見る悪夢に悩まされていた。やはり夢の舞台は地方の海辺の町だった。今や夢の内容は、おぞましい出来事へと発展していた。悩む美貴は、夢が持つ意味について調べ始めた。そして、理屈を超えて、夢が自分でも思いもよらない何かを自分に告げようとしているのではないかと感じるようになった。

 夢の中で私は一際大きな岩の上に腰掛けていた。
 これまで夢の中で来たことがない場所だった。すぐ隣には女性が並んで腰掛けている。自分にとって大切な女性だ。なのに名前は・・・・・・、思い出そうとしてもやはり出てこない。
 彼女は何かをしきりと剛に話しかけているようなのだが、この日もなぜか彼女の声を聴き取ることができなかった。不思議なことに、岩場に打ち寄せ、砕ける波の音だけが耳に届いていた。
 彼女の表情からすると、わたしに何かを訴えようとしているのではないだろうか。何とかして声を聴き取ることはできないものか。
 女性のほうへ顔を向けると、口だけがぱくぱくと動いている。
 気持ちが焦る。
『どうしたのだろう』と言ったつもりだったが、自分の喉からも声を発することはできなかった。
 自分は確かにここにいるのに、自由に行動することができなかった。もどかしさだけが募る。
 それは、考えてみるとこれが初めてのことではなく、これまでもずっとそうだったような気がする。
 予め決められた台本のままに演じさせられているような、と言えばいいのだろうか。それとも、再生されているドラマの中の登場人物に自分が乗り移ったような感覚と言うべきだろうか。