(前号までのあらすじ)
 千葉県我孫子市に住む、千葉フロンティア銀行の二年目行員である剛には、幼い頃から見続けてきた夢があった。その夢の中で長い時間をかけて一つの町を築き上げてきた。町は海辺にあり、奇妙なことに、夢とは思われないほどの現実感を伴っているのだった。夢の中には、夢の中の自分と親しい女性が現れ、何かを伝えようとしているように感じられた。剛は、ある日、偶然目にした雑誌の写真に衝撃を受ける。平成初期の風俗をとらえた写真は、夢の中の町のそれと酷似していた。
 一方、横浜に住むOL美貴は、繰り返し見る悪夢に悩まされていた。やはり夢の舞台は地方の海辺の町だった。今や夢の内容は、おぞましい出来事へと発展していた。悪夢が生活に影を落とすまでに悩むに至った美貴は、夢が持つ意味について調べ始めた。そして、その町はどこかに実在していて、理屈を超えて、夢が自分でも思いもよらない何かを自分に告げようしているのではないかと考えるまでになっていた。

「ねえ、お母さん」
 美貴は、キッチンで夕食の後片付けをしながら、洗いものをする珠代の背中に向かって声をかけた。珠代は、四十代後半になった今も若い頃とさほど変わらない体型を維持している。頭の後ろで束ねられた髪はしなやかで豊かだ。美貴は母を目にするたび、心のどこかで、年齢を重ねても自分も女性として母のようにありたいと願っていた。
「ん、何かしら?」
 珠代は、休むことなく手を動かしながら答える。
「わたしが小さかった頃、海に連れてってくれたことがあるわよね」
「ええ、そうね。茅ヶ崎なんかは何度か行ったわね。あなたも智樹も海が大好きだったものね。海がどうしたのかしら」
 弟の智樹は海で泳ぐのが大好きだった。いつも父に泳ぎ方を教えてとせがみ、ビーチに寝転んでいる父の手を引っ張っていたものだ。